矯正治療を開始する時、矯正医であれば誰でも頭の中に「こうなって欲しい」という治療目標をもっています。しかし治療目標が漠然としたものであれば、治療の進行につれて変化し、治療手順もその時々の状況に応じた不安定なものになりがちです。
しかし、レベルアンカレッジシステムでは治療を始める前に具体的な目標(患者さんの現状からみて治療可能な最良の目標)を設定するとともに、その治療目標を達成するためのしっかりとした治療手順を決定します。
ヒトの顔のうちでも下顎ほどわれわれの言うことをきかない部分はありません。押しても引いてもなかなか前後に動きませ ん。しかし考え方を変えて、下顎を開けたり・閉じたりすると頭蓋からみた下顎の前後的な位置は簡単に変わります。これがVertical Control(バーティカルコントロール)の原理です。
顔面の成長発育を眺めると、垂直成分と水平成分に分けることができます。垂直成分は頭蓋に対する
水平成分は、上記それぞれの部分の頭蓋に対する前方成長がこれに当たります。これに対して、下顎頭は後上方に成長するので、全体として下顎平面は平行に下降するとともに、グナシオンはほぼY軸に沿って前下方へ成長します。
正常な発育
ところが、何らかの原因(例えば、サービカルヘッドギア)で上顎大臼歯が挺出すると、他の条件はすべて同じでも成長発育の垂直部分が増加するため、下顎下縁平面は開大するとともにY軸も大きくなって、頭蓋に対する下顎の位置は後退したようになります。
水平成長
このようなところから、レベルアンカレッジシステムではサービカルヘッドギアは使わず、ハイプルヘッドギアを使用いたします。一方、ハイプルヘッドギアや パラタルバーで上顎大臼歯の挺出を押さえると、下顎下縁平面は閉じるとともにY軸角も小さくなり、下顎は頭蓋に対して前方に出てきます。
好ましくない成長
このように、成長発育のバーティカルコントロールをすることにより、下顎の水平的コントロールが可能になります。以上述べましたバーティカルコントロール は、患者の成長発育期に利用できるのであって、成長の完了した患者さんには咬合に関与する筋群の影響力が大きいため、効果的ではありません。
どのようなものにも限界はありますが、レベルアンカレッジシステムではその限界内でベストを尽くすべきだと考えてます。ここでは矯正治療の対象である口腔にもさまざまな限界があることをご説明します。
(1) 前方限界
上顎の前方限界はA点になります。A点を越えて、歯を前方に移動することはできません。レベルアンカレッジシステムでは、これを逆に利用してA点を固定源として使っています(Aポイントアンカレッジ)。
下顎の前方限界はB点になります。もちろんB点を越えて前方へ下顎切歯を移動することはできません。ところが逆に、下顎 前歯を後退させるとB点も後退してしまいます。そして、下顎前歯をもう一度前進させても、いったん後退したB点を再び前方にもってくることはできないので す。これは、治療上注意すべきことです。
(2) 後方限界
上顎の後方限界は、上顎結節です。大臼歯の後方の上顎結節部に、十分なスペースがあれば大臼歯の遠心移動も可能でしょうが、スペースがないのに大臼歯を遠心移動することはできません。
下顎の後方限界は、上行枝です。上行枝の前縁は、女子で16歳まで、男子では18歳まで、1年に1.5mm後退します。
(3) 側方限界
歯頚部の位置で歯を切断
歯頚部の位置で歯を切断
上顎も下顎も歯列弓の側方限界は、歯槽骨の頬側板になります。上顎の場合は、正中口蓋縫合部で少し拡大することができますが、下顎では拡大するところはありません。いずれにしても、歯列弓の拡大には、あまり自由度はないのです。
側方限界でもっとも注意しなければならないのは、下顎の犬歯間幅径です。この幅径は、矯正治療によって拡大しても治療後また、もとの幅径に戻ってしまいます。そして年齢とともに狭くなっていく傾向がありますので、矯正治療で拡大しないように注意しなければなりません。
最初のワイヤーとして、はじめから018×018のナイテノルワイヤーを用います。そうする事により上顎前歯にトルクが加わり、上顎前歯は唇側傾斜せずに レベリングされまする。従って、レベリング時に側方歯に遠心への力が生じます。上顎第2大臼歯のチューブの15°のTIPと上顎第一大臼歯ブラケットに組 み込まれたオフセットとこの力で、症例によっては治療の早い段階で臼歯関係の改善が見られる場合があります。ただし、この事がおきるのはStep 1レベリング時に上顎第一小臼歯の抜歯を行わない場合に限ります。